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執筆者の写真呉式太極拳 順展会

第48回 永かれ、青・壮年期(前編)


前回、前々回と2回にわたりポテンシャルを伸ばす話を書いた。

その話をもう少し引き伸ばしたい。

よく知られているギリシア神話の謎なぞをまず引用する。

「一つの声をもち、朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足で歩くものは何か。 その生き物は全ての生き物の中で最も姿を変える」。

答えは「人間」。

人間は幼年期に四つ足、青年期に二本足、 老年期には杖をついて三本の足で歩くというが理屈。

加齢とともに足が弱り、衰えるのは何も現代だけでなく、遠いギリシア時代から人間が直面する不変の生理現象であった。

上の謎なぞのように、足腰の強さを人生ステージ進捗の基準にすれば、

青年・壮年期を極めて永く、老年期を極力短くすることを我々はめざしたい。

人生のステージは年齢によって一律に区分されるのではなく、

体との向き合い方、体の使い方によって決まり、永くも短くも変化するものである。

青年・壮年期を永く引き伸ばすための一つの答えが武道にあると思う。

武道では「手足の動きの一致」がもっとも大切にされ、上半身単独の動きを嫌う。

その理想の動きを体現するため、歩行練習、つまり歩くことに長い時間を費やす。

呉式太極拳の練習は30分から40分かけ、

上半身下半身を協調させゆっくりと歩く練習である。

それが安定した強靭な足腰をつくってくれる。

重心が下に収まり、上半身が「虚」また「柔」の状態になることが手足の動きの一致を約束してくれる。

手足をつなぐ経路である腰・背中・肩・肘が硬ければ、

下半身から上半身への情報伝達が著しく損なわれる。

上半身を柔らかく使うには、是が非でも下半身の安定と強さの支えが必要であり、

武道の練習のほとんどが歩行練習である理由はここにある。

ふたたび野球の話で恐縮だが、

サントリードリームマッチの往年の名選手の動きを先日映像で観た。

名選手だけあって50代、60代でも往時をしのばせる素晴らしいプレーであったのだが、

現役時代とは明らかに異なる違和感が目についた。

それは何かというと、手足の動きが一致せず、上半身頼みのプレーであること。

下半身と腰の衰えが著しく、両者が上半身と比べると極端に動けていない。

上・下のバランスが悪すぎるのが惜しまれた。

名選手であっても足腰の急速な衰えにはあらがえないようだ。

一方で上半身の動きには昔の冴えが残る。

鍛えやすく維持しやすい上半身に対し、鍛えるのに時間がかかり、維持しにくい下半身という人体の構図が見えてくる。

この人間不変の摂理を熟知している武道が、

いくつになっても歩行練習を徹底的に行うのは、上半身と下半身のしなやかな協調性を失わないため、手足の動きを常に一致させるためであることを忘れてはならない。(つづく)


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