「週刊ゴルフダイジェスト」に連載中の
荒川博×片山晋呉の対談記事について書いてみたい。
ゴルフ門外漢の私が人に薦められ読みはじめたこの記事、面白い。
体の使いかたについて共感できることが多く、
ゴルフ素人の私もグイグイ引き込まれる。
小稿では野球・ゴルフを語って太極拳の要訣に触れているところをフォーカスする。
対談から私が読みとったテーマは、
伝達力と浸透力。
以下は第12話の早稲田実業 清宮幸太郎選手についての記事から。
合気道・居合など武道に造詣が深く、
現役時代の王貞治選手を育てた名伯楽として有名な荒川さんは
清宮を評して、プロでの大活躍を予感させる大器と言う。
その理由として、
◯ 無駄のないきれいな重心移動
◯ 柔らかい動き
◯ リラックスした表情
を挙げる。
ー 無駄のないきれいな重心移動 ー
左打ちの清宮は、打ち終わったあと前足である右足にすべての体重が乗っている。
もしこれができず、後ろ足に体重が残ると、
体はバットの運動をさまたげるブレーキとして働いてしまう。
重心の虚実がきれいに分かれるからこそ、
足元から生まれる全エネルギーをボールに十全に伝えることができる。
虚実の分勢がうまくいかなければ、
加速しながらブレーキをかける状態となり、
当然伝達力が損なわれ、「双重(居つき)」の弊におちいってしまう。
ー 柔らかい動き ー
清宮の柔らかさの特徴として、
「バットの握りが軽い」
「打ち終わったあと力んでいない」
「利き腕の筋力に依存し過ぎない」
ことなどが語られる。
なかでも、内野フライかと思うほど軽い振りに見えるのに、
実は特大ホームランであったというエピードが興味深い。
グリップの握りが軽いからこそ、
バットは単なる道具でなくなり体の一部となる。
脳からの指令はより繊細に、より速くバットまで届き、
しなやかなハイパフォーマンスと結果を生み出すのである。
このような道具の扱いかたは太極拳の武器法と同じである。
上級者の太極剣を見ると、
視界から人が消え、剣だけが空中で柔らかく舞っているように見えるのはまさに柔の至りである。
ー リラックスした表情 ー
清宮の動きは絵になりにくくカメラマン泣かせと言う。
表情に固さや高揚感がなく、常にリラックスしていてつかみどころがないからだ。
最新のスポーツ科学は表情とパフォーマンスの因果関係に注目しているようで、
100mのような短距離を笑いながら走ると好タイムが出ると考える向きがある。
身体操作が高いレベルになればなるほど、
リラックスした表情が大切であるという考えに私も同感する。
顔(表情)は脳の窓のようなもので、
動きの最中、たとえば唇が固かったり、眉間にシワが寄っていれば、
脳の力みは一目瞭然、その時の脳と体のつながりはぎこちない。
気功の観点からも特に眉間は柔らかく開かれていなければならない重要箇所なので、
ここの力みは是が非でも避けたい。
ー 伝達力と浸透力 ー
武道の基本と奥妙は「いかに善く立つか」にあり、
歩法がもっとも重要とされるのは、あらゆる武道に共通のことである。
よって最大のパフォーマンスは歩法(重心移動)と手法が相まった時に生み出される。
今回の記事でスポーツの世界でも突きつめれば同じ理論であることが感じられた。
大地と一体となった足からの力をいかに無駄なく手先(道具の先)まで伝達するか、
そしてその力を減少させることなくいかに対象(ボールや相手)へ浸透させていくか、
その理想に近づくべく太極拳では、型を行い歩きながら重心の移動・柔らかさ・力の伝達を練っている。
高校二年生にして大器の風格を感じさせる清宮の今後の成長と活躍に注目したい。