永六輔さんが先日83歳でお亡くなりになられた。
生前の多岐にわたるご活躍、
江戸っ子気質(かたぎ)をしのばせる言葉づかいと話ぶりに敬意を表し、
謹んでご冥福をお祈り申し上げる。
様々な分野で個性を遺憾なく発揮された方なので、
著名な業績は十指に余るどころではないが、
もっとも人口に膾炙しているのは、
「上を向いて歩こう」
「こんにちは赤ちゃん」
の作詞であろう。
個人的には、永さんの逝去とともに
生きた江戸言葉(江戸の風韻)が失われゆくことがもっとも惜しまれる。
我々日本人の衣・食・住は明治維新を境に劇的に変化したが、
これらに増して激烈に変化したのは、
日本語ではないだろうか。
普段着として着物をきる人と街で出会うことは今めったにないが、
永さんのような日本語を話す方にお目にかかることはそれ以上にまれなこととなった。
着物も言葉も普段使いするからこそ肌に身につくもので、
特別な機会に用いただけでは到底ものにならない。
こと体の運用に関しては、
肌に身についた人、自在に使える人が周りにいて
はじめて知恵は伝承される。
さもなければおぼつかないのが身体知伝承の難しさだ。
永さんご幼少のみぎり、
江戸言葉を自由にあやつる人は周りに多かったことだろう。
そんな環境のなか、江戸言葉は永さんに自然に染みこんでいった。
生きた江戸の香りを今に伝える稀少な人の他界がつくづく惜しまれる。
伝統芸能、伝統武術の世界において
伝承で大切なのは「薫習(くんじゅう)」であると思う。
習ったものより慣れたものこそが、
うつり香のように体に染みこみ、いつまでも残っていく。
慣れるとは徹底した反復に他ならない。
江戸言葉同様、伝統の風格を醸し出せる人が少なくなってしまった現代、
伝承の責任は重く、期待はそれにも増して大きい。