海の生きもののように環境にとけこむ二木あいさんの姿に共感し、
前回体の持てる可能性と進化について書いた。
今回は太極拳における進化について書いてみたい。
− 特殊と普遍 −
二木さんの到達した境地と進化は素晴らしい。
筆舌に尽くせない素晴らしさだ。
しかし、それは個人の想像力・身体能力に負うところが大きく、
誰もが真似できるものではない。
その意味で特殊・個性的な進化だ。
一方太極拳の進化は「普遍的」である。
正しい教え、正しい練習方法を守りさえすれば、
誰もが進化のレールに乗り、
目標到達点に向かって進むことができる。
なぜそう言えるのか?
答えは太極拳が、
「人間にとっての共通の弱さ」を徹底的に見つめ、
「その弱さを克服するための練習」だからである。
太極拳は徹頭徹尾ユニバーサル・デザインなのだ。
− 太極拳における進化 −
太極拳の大きな目的、
それはよく言われるように
「調心」意を調える
「調身」からだを調える
「調息」息を調える
の3つにある。
そのすべてが調和する「三調」が理想である。
「調和」と言い、「強化」と言っていないことに
注目していただきたい。
太極拳の目的は、
「調えること」にあり「強くすること」ではない。
「強さ」は調えた結果備わるものに過ぎない。
今ここで3つの要素すべてに立ち入る余裕がないので、
「調身」にしぼってもう少し話を進める。
人間の体に共通する弱点はどこか?
それは腰である。
腰は弱点であるだけでなく、
もっとも頻繁に使うところでもある。
ぎっくり腰で立つことすらできなくなったという話をきくのはめずらしくないが、
腰が体のすべての動きにかかわる要衝であるのはご納得いただけるだろう。
呉式のような道教系の太極拳では、
脳(意)や丹田ではなく「腰椎が第一の主宰」であると考える。
動きのすべてに、
◯骨盤と腰椎を分離させる
◯腰椎が動き全体の主宰となる
◯腰椎だけ、あるいはできるだけ少ない関節で動く
◯骨盤開閉の柔軟度・自由度を高める
ことが要求される。
これらを守りながら正確に動くことが、
まさに太極拳にとっての合理的な動きなのだ。
私は柔軟のための柔軟を現在行っていないが、
太極拳の型を繰り返しているおかげで、
腰周り、股関節周りが着実に柔らかくそして自由になっていることを実感する。
もちろん、腰痛とも無縁である。
今回はちょっと長い文章となってしまったが、
太極拳における体の進化は、
正確かつ合理的な動きで、
「腰椎」を最適化していくことである。
その進化は二木さんのような華麗なものでは決してないが、
腰椎という小さな部分に起こる進化は、
体全体に大きな変化をおよぼすものであり、
健康法としても戦闘法としても枢軸として
有形無形に働いてくれるものなのである。